レナード・ゾン氏、発生生物学研究で2026年March of Dimes賞を受賞
March of Dimesは、発生生物学分野での業績により、血液学者レナード・ゾン医師に2026年Richard B Johnston Jr, MD Prizeを授与した。ゼブラフィッシュを用いた先駆的研究により胚における血液発生が解明され、妊娠中の貧血を含む希少血液疾患の理解深化と、小児の遺伝性血液疾患に対する画期的治療の開発につながった。
March of Dimesは、発生生物学分野での業績により、著名な血液学者・幹細胞研究者であるレナード・ゾン医師(Dr. Leonard Zon)を、2026年March of Dimes Richard B Johnston Jr, MD Prizeの受賞者に選出したと発表した。同氏の先駆的研究は、胚で血液がどのように発生するかを明らかにし、妊娠中を含む希少血液疾患への理解を深めるとともに、乳児・小児に影響する遺伝性血液疾患に対する画期的治療につながった。
ゾン医師はBoston Children's HospitalのStem Cell Research Program(幹細胞研究プログラム)ディレクターであり、Harvard Medical Schoolの小児医学Grousbeck Professorも務める。新生児・小児にみられる血液疾患やがんに焦点を当て、ヒト疾患研究のモデルとしてゼブラフィッシュを用いる手法を切り拓いてきた、評価の高い医師科学者である。
1993年、血液がどのように発生するのかを理解し、まれではあるが壊滅的な遺伝性血液疾患の負担を軽減したいという思いに駆られ、ゾン医師はゼブラフィッシュ研究に取り組んだ。ゼブラフィッシュは、横縞模様をもつ全長1.5インチの熱帯魚で、胚が透明であり、週に300個の胚を産むことができる。この独特な海の生物(※原文の表現)によって、同氏はヒトの生物学と疾患治療に関する注目すべき知見を得てきた。その中には、(1)胚における血液発生の経路を解明し、妊娠中を含む希少血液疾患の理解を深めたこと、(2)母体から胎盤を介して児へ重要な微量栄養素である鉄を運ぶ鉄輸送体遺伝子であるferroportinを発見したこと、(3)鎌状赤血球症を含む血液疾患の小児に対する遺伝子治療(gene therapy)で用いられるよう、幹細胞集団を指数関数的に増殖させる成長因子を同定したこと、などが含まれる。
ヒト疾患を目的としてゼブラフィッシュを研究した最初期の科学者の一人として、ゾン医師は1990年代後半にチームを率い、これまで血液疾患との関連が示されていなかった5つのヒト遺伝子を発見した。このブレークスルーは血液学分野を沸かせ、ゼブラフィッシュがヒト疾患の信頼できるモデルであるだけでなく、卓越したモデルであることを決定づけた。
ゾン医師のチームが発見した5つの新規遺伝子のうち、最も重要だったのが、2000年の鉄輸送体遺伝子ferroportinの発見である。この遺伝子は、鉄、ひいては酸素運搬を担うヘモグロビンが、胎盤を介して母体から児へ届けられることを保証する。この発見により、世界的に一般的な状態であり早産や低出生体重につながり得る、鉄欠乏および妊娠貧血(anemia of pregnancy)に関する理解が一変した。この知見は、母体貧血とそれが胎児発育に及ぼす影響の予防・治療に向けた新たな道を開いた。
2002年にInternational Society for Stem Cell Researchを設立したゾン医師は、乳児・小児に影響する血液疾患を治療するための幹細胞に関する変革的発見にも貢献している。2007年、同氏の研究室はprostaglandin E2がゼブラフィッシュの幹細胞集団を劇的に増やし得ることを明らかにした。2013年のヒト臨床試験(clinical trial)により、この脂質の効果が確認された。すなわち、ドナーの臍帯血にこれを添加すると、レシピエントの幹細胞集団が400%増加し、白血病患者における移植成功率が大幅に改善した。現在、このプロスタグランジンの発見は、鎌状赤血球症、サラセミア、原発性免疫不全症(primary immunodeficiencies)などの小児遺伝性血液疾患を治療する幹細胞遺伝子治療で日常的に用いられており、世界中の研究チームが用いる遺伝子治療技術の進歩を後押ししてきた。
ゾン医師の発見は、新たな治療法の創出へとつながり続けている。同氏のゼブラフィッシュ研究は、Diamond-Blackfan anemiaに対する新規治療法の開発につながり、現在はヒト臨床試験に近づいている。また、同氏が設立した企業によって開発された、小児疾患であるspinal muscular atrophyを治療するための治療法は、現在Food and Drug Administrationによる審査を受けている。
March of Dimes Richard B Johnston Jr, MD Prizeは、発生生物学分野の研究によりヒトの健康に関する理解を変革した科学者を顕彰する賞である。発生生物学を用いて胚における造血過程を明らかにしたゾン医師の研究は、妊娠合併症や小児疾患への直接的な応用をもつ点で、この使命を体現している。