心不全・嚢胞性線維症・高コレステロール治療でCRISPR遺伝子編集が前進

心不全、嚢胞性線維症、高コレステロールを標的とする3つのCRISPRベース治療が、遺伝子編集の臨床応用を前進させた。ミトコンドリア産生の増強、脂質ナノ粒子による非ウイルス性の遺伝子挿入、ANGPTL3標的の単回投与編集が、それぞれ有望な効果を示した。

研究者らは、心不全、嚢胞性線維症、高コレステロールを標的とする3つの異なるCRISPRベースの遺伝子編集アプローチを開発し、一般的な疾患と希少疾患の双方に遺伝子編集技術を応用するうえで大きな前進を示した。手法は、ミトコンドリア機能の強化、ウイルスベクターを用いない遺伝子挿入、単回投与による脂質低下まで多岐にわたる。

Rice UniversityとBaylor College of Medicineの研究者らは、遺伝子発現を調節して心筋細胞でのミトコンドリア産生を増やす「非編集型」のCRISPRシステムを開発し、心不全の根底にあるエネルギー危機に対処した。心不全は米国で680万人に影響し、米国の成人の4人に1人が生涯のうちに発症すると見込まれている。患者の3分の1は、心臓がエネルギーを回復・維持しようともがく中で、心筋梗塞後に心不全を発症する。

このシステムは「オン」スイッチとして機能し、細胞内の制御経路を調整することで、細胞により多くのミトコンドリアを組み立てるよう促す。「細胞に遺伝子を過剰産生させるのではなく、CRISPRを用いて自然な制御システムを適度に後押しし、微調整した」と、Molecular Therapyに掲載された研究の責任著者であるRiceのバイオエンジニアリング准教授Isaac Hiltonは述べた。「それにより、細胞内のバランスを保ちながらミトコンドリア性能を高められる。これは安全に臨床へ移行するうえで重要な要件である」。

さまざまなヒト細胞タイプで試験したところ、このシステムは制御タンパク質の産生を増加させることに成功し、ミトコンドリア機能と細胞エネルギー水準を増幅した。拍動収縮を担う心筋細胞であるヒト心筋細胞(cardiomyocytes)に適用すると、ミトコンドリア機能の改善指標である酸素消費率が改善した。研究者らは、動物モデルでの試験に加え、正常心および疾患心の双方から得た成人ヒト心臓ドナー組織でも、同様のミトコンドリア機能改善を見いだした。

現在の心不全治療は、障害されたエネルギー供給に合わせて心臓のエネルギー需要を下げることに重点が置かれている。「従来のアプローチは根本原因に対処しないため、時間の経過とともに追加の合併症を招きうる」と、研究の共同責任著者であるBaylorの外科教授Ravi Ghantaは述べた。「心不全はより一般的になると予測されており、有効な治療法の開発に注力することがとりわけ重要である」。

別の進展として、UCLAの研究者らは、脂質ナノ粒子(lipid nanoparticle)ベースの遺伝子編集アプローチを開発し、ヒト気道細胞に健常な遺伝子全体を挿入して、嚢胞性線維症の実験室モデルで重要な生物学的機能を回復させられることを示した。この研究は、mRNAワクチンの送達に広く用いられる脂質ナノ粒子という微小な脂肪由来粒子が、ウイルスベクターを用いずに、ゲノムへ大きなフルレングス遺伝子を精密に挿入するために必要な複雑な分子カーゴを運べるよう設計可能であることを示している。

嚢胞性線維症は、嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンス調節因子であるCFTR遺伝子の単一遺伝子変異により生じる。CFTRは、気道上皮細胞表面で塩化物イオンと水の移動を助けるチャネルをコードする。このチャネルが適切に機能しないと、肺の粘液が濃厚で粘稠となり、細菌を閉じ込め、慢性感染と進行性の肺障害につながる。CFTRモジュレーター(CFTR modulators)として知られる高い有効性の薬剤は、多くの嚢胞性線維症患者の治療を一変させたが、約10%の患者はCFTRタンパク質をほとんど、あるいは全く産生しないため、これらの薬剤が作用する標的が存在しない。

嚢胞性線維症を引き起こしうるCFTR遺伝子の変異は1,700種類以上あるため、研究チームは、個別にではなく1回の編集でこれらの誤りのいずれにも対応できる普遍的アプローチの開発を目指した。粒子は、3つの遺伝子編集要素を同時に輸送するよう設計された。すなわち、正確な位置でDNAを切断するCRISPR機構、正しいゲノム部位を標的化するガイド分子、そして機能的なCFTR遺伝子の完全なコピーをコードするDNAテンプレートである。

研究者らは、既存薬に反応しない重症の嚢胞性線維症変異を有する、培養したヒト気道細胞でこのシステムを検証した。ナノ粒子は約3~4%の細胞に健常なCFTR遺伝子を導入することに成功した。修復された細胞の割合は比較的小さいにもかかわらず、処置により細胞集団全体で正常CFTRチャネル機能の88~100%が回復した。

置換CFTR遺伝子は、細胞内に入った後のタンパク質産生を最大化するよう設計されており、修復された細胞数が少なくても大きな効果をもたらしうる。この遺伝子設計はコドン最適化(codon optimization)として知られ、UCLAのDonald Kohnの研究室の共同研究者らによって開発され、タンパク質そのものを変えることなくCFTRタンパク質産生を増強する。

メッセンジャーRNAを送達するアプローチとは異なり、後者は繰り返し再投与が必要となるが、新たな戦略では修復遺伝子をゲノムへ直接挿入するため、細胞とその子孫が時間とともに機能的なCFTRを産生し続けられる可能性がある。

コレステロールを標的とするCRISPR-Cas9遺伝子編集治療の第1相(phase 1)初のヒト試験が、American Heart Association Scientific Sessionsで発表され、The New England Journal of Medicineに掲載された。この治療は、LDLとトリグリセリド代謝を調節することが示されているANGPTL3を標的とし、標準治療にもかかわらず脂質が高値の患者に、単回の静脈内投与で投与された。

患者では用量依存的に、LDL-Cが最大で約50%低下し、トリグリセリドは約55%低下した。初期データでは治療に関連した重篤な有害事象は認められなかったが、長期追跡はなお継続中である。CRISPRアプローチはヒト遺伝学によっても支持される。ANGPTL3に影響する自然発生の機能喪失変異(loss-of-function mutations)を持つ人々は、心血管疾患の発症率が低いことが示されている。

第1相試験は早期の安全性評価のみを目的として設計された。この治療はLDL-Cとトリグリセリドを低下させる一方で、これが心血管死亡率の低下につながるかどうかはまだ示されていない。研究はBaylor College of Medicine、American Heart Association、National Institutes of Healthの支援を受けた。

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References

  1. CRISPR-based technique unlocks healing power of mitochondria for heart failure therapy · news.rice.edu
  2. Lipid nanoparticle gene-editing: advancing gene therapy for cystic fibrosis - RegMedNet · regmednet.com
  3. The Promise of One and Done CRISPR-Based Lipid Lowering - Medscape · medscape.com